(2013年読書感想68冊目)
汐原由里子 著 六芦かえで イラスト
おすすめ度★★★★☆(好きな雰囲気のお話だった! これからにも期待です)
「あなたにどんな事情があるのかはわからない。でも、自分を隠して偽って暮らしていたら、いつか本当の気持ちがわからなくなってしまうわよ。私、レオンがそんなふうになってしまったら……嫌だわ」(p113)
2013年度のコバルトロマン大賞を受賞した新人作家、汐原由里子さんのデビュー作。
9月刊のコバルトの乙女ちっく通信で題名を見た時から、気になって仕方なかった作品です。だって、冷たくて熱い妖精ものですよ! これは個人的に読むしかないです。
結果、想像していたお話(パラノーマルロマンス?)とはちょっと違かったけれども、十分に好きなお話だし、読んでよかったと思える作品でした。
物語の舞台は妖精伝説が多く残るフランス。ヴィエーヌ座のヴィオラニストを兄に持つ少女マリエルは、座のパトロンであるラヴァル男爵に言い寄られていた。
ある時、妖精の住むという乙女の湖のある、リュジニャン伯爵家の敷地内に行くと、なぜか女装した男の人が倒れていて…!? その男性、女泣かせで有名な「氷の貴公子」の異名をとる、リュジニャン伯爵家のレオンだった…。
というお話かな。
何より私がこの作家さんで好きになったのは、文章の美しさです。色彩の表現とお菓子とお洋服の描写がきれいで…! うっとりします。
明るく元気なマリエルや、冷たくも優しいレオンといった主役二人はもちろん、マリエルの兄アランや、マリエルに横恋慕する嫌な性格のラヴァル男爵など、脇役も魅力的でした。特にラヴァル男爵は私の大好きな小物具合で! たまらなかったです。
フランスの伝承(妖精物語や湖の騎士ランスロットやイスの都など)を物語にうまく取り入れ、全体的にファンタジックな雰囲気が味付けされていて、それも好みでした。
ページ数自体はどちらかというと少ないのですが、マリエルとレオンのすれ違いの様子など、丁寧に書かれた物語は、十分な満足感がありました。
とにかく、良質な小説を書く作家さんだなあと思いました。この作家さんの作風、好きです。
これからもぜひこういったファンタジー的な小説を書いていってほしいものです。
残念なのは挿絵がちょっと少なく感じたことかな。格好いいというラヴァル男爵の挿絵もぜひ見たかったのに……。
美しい文章で紡がれる妖精ロマンスに興味のある方は、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか? おすすめです。
[2回]
PR