(2013年読書感想65冊目)
上橋菜穂子 著
おすすめ度★★★★☆(切なく、だけどどこかきれいなファンタジー。)
(……この子らは、蜘蛛の巣の、細い糸の先でふるえている、透きとおった水の玉のようだ。)(p216)
上橋菜穂子さんといえば、「守り人」シリーズ「獣の奏者」シリーズが特に有名ですが、この「狐笛のかなた」は一冊完結ものです。
340ページと、決して長すぎはしない本なのに、読み終わったとき、長い長い時の中を共に歩んでいったような、そんな不思議な気持ちにさせてくれる一冊でした。
小夜は産婆の祖母と里のはずれで暮らしていた。ある日、一匹の狐を助けるために、近寄ってはいけないといういわくありげな屋敷に身を隠したのがきっかけで、人生が大きく動き始める……、といった導入かな。
上橋さんの物語のすごいところは、とにかくまるで自分たちもその景色を「視ている」ような気分にさせられる、その素晴らしい描写力にあると思います。
小夜に助けられた野火が、小夜と小春丸と混ざって遊びたいと願う最初のほうのシーンからもう泣きそうになってしまいました。切ない……!
この野火がすごくいいやつで、最後はそうなるのかあと思いつつ納得の結末でした。
野火には報われてほしと思ったので、ちょっと切ない余韻の残る終わり方でしたが、この終わり方は好きです。
私は小春丸も好きだったので、逆に小春丸の出番が予想以上に少なかったことが残念でしたが。
全体的にページの割に人物がたくさん出てくるので、もっと書き込んでほしかった登場人物とかも多くて、そこがちょっと惜しかったです。木縄坊とか好きだったのですが。そう考えると、もうちょっと分量があってもよかったのかもしれないですね。
でも、非常に切なく、けれど優しい気持ちになれるような、満足感の高いファンタジー小説です。やっぱり上橋さんの書くファンタジー小説はいいなあと思ってしまいました。ほかの物語も久しぶりに読みたくなったりして、余韻に浸っています。
あと、何と言っても表紙がきれいで、断然ハードカバーのほうがお気に入りです。
[0回]
PR