(2013年感想50冊目)
乾石智子 著 羽住都 表紙絵
おすすめ度★★★★☆(4・5くらい。乾石さんは短編も面白かった!
「人間の不幸せなところはね、本当に幸せなときにそれに気づかないって点じゃないかと、私は思うんだがね」(p240)「夜の写本師」でファンタジー界に新たな風を吹き込んだ乾石智子さんの初の短編集。
「夜の写本師」を読んだ時から、もっとこの世界観で物語を読んでみたいと熱望した私ですが、今では「オーリエラントの魔導師」シリーズとして、堂々の展開をしています。嬉しい!
シリーズ名を冠したこの短編集には、様々な魔法を使う魔導師たちの物語が4篇収められています。
「紐結びの魔導師」は、ひねくれた青年エンスと、闊達な老人リコのところに、力比べに魔導師が訪れるところから騒動が始まります。
「闇を抱く」は悲惨な境遇にいる女たちが、その境遇を打開するために魔女となって暗躍する物語。
「黒蓮華」はミステリー風の復讐譚。
そうして「魔道写本師」は、「夜の写本師」の主人公カリュドゥの師匠、イスルイールの物語となっています。
どの短編も、風土や生活の中に息づく魔導師たちの様子が活き活きと描かれ、彼らの暮らすコンスル帝国の様子が目に見えるようです。
魔導師、それは人々の暗い欲望の澱をその身に受け入れ、暗い闇を抱える者たちの総称である。
人々のかわりとなって暗黒を背負う彼らだからこそ、日常の中に息づき、根付いているのかもしれませんね。
そんな暗い魔導師たちのお話ですが、物語自体は明るい結末を迎えるものばかりで、読んでいて気持ちがいいです。
私のお気に入りは「闇を抱く」と「魔道写本師」かな。
「夜の写本師」にちょい役で出てきたイスルイールが大好きだったので、彼が主役の短編とかすごく嬉しかったです。
個人的にはこの短編集を読んだら、「夜の写本師」が読みたくなること間違いなし!
しかし、乾石さんの作品に出てくる女の人は皆強いなあと思いました。
もともと文章のうまい作家さんでしたが、さらに文章がこなれてきて、読みやすくなっているように感じます。
この短編から、「オーリエラント」の物語世界の門を叩いてもいいかもしれませんね。
お気に入りの短編集です。
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