(2013年感想44冊目)
乾石智子 著 吉田ヨシツギ 表紙絵
おすすめ度★★★★☆(静謐な美しさのある物語です)
イェイル、生きていく、ということは、ただ息をして暮らしていく、ということではないのだな、それだけでもすごく難しいのに、と心の中で叫ぶと、九歳の顔のままの乳兄弟は確かにそうだな、と苦しそうに顔を歪めた……。(p131)乾石智子さんの書くファンタジーはやっぱりすごい、と読んでいていつも思う。今回は北の大地を舞台にした、冬と氷と、ファンズという獣たちに彩られた物語です。
静謐でありながら美しい文体、静かでありながらも熱い友情や信頼といった感情たち、骨太の世界観。乾石智子さんは間違いなく異世界を視ることが出来る作家さんだと思います。
家臣に育てられた王の息子、ディアスはのんびりと暮らしていた。しかしある日、彼を政敵とみなし恐れる兄、オブンの策略にかかり王から南の大地へと追放される。その頃、オブンの娘であり、ディアスの幼馴染でもあるアンローサも、危険にさらされ、北へと落ち延びるのだった……。
というようなお話かな。
乾石さんの作品はこれでもう何冊目になりますが、とにかく詩的で美しい文体、静かなようでいて熱い人間関係や感情の書き方が素敵です。今回のお話もそうで、少年少女たちの友情や信頼関係が、北の大地の寒さよりも熱かった!
乾石さんの文体は重厚だけれど、その中にくすっと笑えるようなユーモアや温かさがあるのが素敵です。
今回は少年と少女の成長の物語かな。王子様、お姫様として育ったディアスやアンローサが、落ち延びる先でそれぞれ様々な経験をして、ぐんぐんと成長していく様子が、感動的ですらあります。
特にアンローサと侍女ナナニの心の交流が素敵。
でも、わたしは9歳でなくなった主人公の乳兄弟、イェイルが好きです。亡くなったあともディアスを導きつづけ、最後にしたあの決断には、心を揺さぶられました。
本当、乾石さんは今の国内ファンタジー界において、素晴らしい作家さんのひとりです。執筆スピードも半端ではないので、本当すごいなあと思います。
乾石さんの作品を読んだことのない方には、ぜひ何か読んで欲しいなと思います。そうしてその素晴らしいストーリィテリングを体験して欲しいです。
この本も良かったです。もう、これからも絶対追いかけたい作家さんです。
[0回]
PR