- 闇の虹水晶
- 発売元: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/12/07
(2013年感想27冊目)
乾石智子 著 今市子 表紙絵
おすすめ度★★★★☆(4・5くらい。もうひと押しくらい欲しいけど、乾石智子さんの作品はやっぱりいいです。)
その力、使えばおのれが滅び、使わねば国が滅びよう。
それが、創石師・ナイトゥルにかけられた呪いだった。(p3)「夜の写本師」でファンタジー界を瞠目させた乾石智子さんの、第4作目にあたる長編です。
今回は出版社は創元ではなく、「写本師」の世界とは別の国を扱っていますが、そこが、この世界はほかの著作の世界と繋がっているのではないか、と思わせるところがあります。それだけでなんて素敵なんでしょう。
一族を皆殺しされた上に祖国を征服され、その征服後の国で飼い殺しにされている創石師(ナイア)、ナイトゥル。
彼は人の感情や病気などを視ることができ、それを石に変えることができますが、あるとき魔女に呪いをかけられます。
そんなナイトゥル、生きるも死ぬも投げやりだったのですが、国で戦乱の影が忍び寄り……。
といったあらすじかな。
やっぱり乾石さんはすごいなあ。好みはあるでしょうが、今まで読んだ本はハズレがありません。どれもびっくり、そうしてうっとりするほどの重厚感と闇や負の気配を感じます。
この「闇の虹水晶」は、出版社が違うからか、今までの作品と比べるとどことなくですが、読みやすくて爽やかというか、明るい気配を感じます。
何より、いつもと同じようなちょっとウジウジしている男主人公なのですが、彼を支えるヒロイン・ドリュティナオ(ドリュー)の存在が魅力的です。彼女の強さが、いつだって救いでした。
そうして今回は、少年たちの友情も光っていました。やっぱり暗い中にもさわやかなものがあって、読後感も良かったです。
私は「写本師」の世界観と闇の描き方が好きだけど、これはこれで十分すぎるほど楽しめます。こっちのほうが好きって人もいるかも。
文章はとても詩的で、含蓄に富んでいます。ああ、これこそがファンタジーだなと思わせてくれる作品を、いつだって乾石さんは書いてくれていて嬉しいです。
乾石さんはその重厚な世界観や筆致の割に刊行ペースが早いですが、クオリティがまったく衰えないのですごいです。
でも、もっともっとゆっくりでいいので、もっとすごいものを書いて欲しい。そう思わせてくれる作家さんであり、作品たちであります。
日本ファンタジー界で、今一番お勧めの作家さんのひとりです。
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