(2013年感想12冊目)
原題 Hemlock At Vespers
ピーター・トレメイン 著 甲斐萬里江 訳
おすすめ度★★★☆☆(短編もいいですが、個人的には長編の方が好みかな。)
「ヘリンバート院長殿、私どもは、難解を解明しようと努めている理性ある人間のはずではありませんか。その過程で、私どもの誇りと自尊心を傷つける振る舞いをしては、なりますまい。なぜなら、私どもが目指しているのは、真実なのですから。真実のみを求めているのですから」(p46)「修道女フィデルマ」シリーズの短編集。15篇の短編を5篇ずつにわけて、日本独自に編集出版したものです。これはその最後の五編が収録された短編集です。第三弾ですね。
高位の法廷弁護士にして裁判官、ドーリィであるところの美貌の修道女フィデルマが、国内外問わず鋭い推理で数々の事件を解決します。
この本には、「ゲルトルーディスの聖なる血」「汚れた光輪」「不吉なる僧院」「道に惑いて」「ウルフスタンへの頌歌」の五篇が収録されています。
うーん、個人的には、長編の方が好みかな、といった印象。短編集はサクサク読めるので、それはそれで魅力的なのですが、なんといっても短編集はワトソン役のエイダルフが(少なくともこの本には)いない! これが残念で仕方ありません。
推理小説としてだけ見るならば、短編は冗長にならない分だけいいのかもしれないですが。
しかしこれだけ読むと作者の話の落ちどころもわかってきてしまい、似たようなお話が多くなってしまうのも残念なところです。
どの犯人の動機も、色恋とかちょっと異常な性癖とか、そんなのばかりなんだもの……。
しかしさすがアイルランドの歴史の権威であるトレメイン先生だけあって、随所に散りばめられているケルト当時の風習は、とても読んでいて面白いです。このケルト事情だけでも、読む価値アリだと思います。
個人的なお気に入りは、「ウルフスタンへの頌歌」ですね。このシリーズで密室ものが読めるとは思っていなかったので嬉しいです。サクソンの王子たちといった、(小物だけど)大物がたくさん出てくるのも楽しいです。
しかし、フィデルマの頭の切れっぷりは、当時では相当変わり者だったのではないでしょうか。皆が妖術と騒いでる事件を、理詰めで解決していくんですもの。
フィデルマ単体でも十分に魅力的ですが、やはり彼女の隣にエイダルフがいると、フィデルマはもっと活き活きしているようにみえます。そう言う意味で、私個人としては長編に軍配をあげますね。でも、手軽に読める短編集もまたよしです。ああ、またこのシリーズが何か読みたくなって来ました。
評価はちょっと辛めですが、面白かったです。
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