- 夜の写本師
- 発売元: 東京創元社
- 発売日: 2011/04/28
(2013年感想10冊目)
乾石智子 著 羽住都 表紙絵
おすすめ度★★★★★(面白かった! この詩的でダークな世界観がたまりません。)
「千年の因果をおれは経験した。確かに重たい千年だ。だけど」
「だけど?」
「それより大きく重たいのは、エイリャとフィンを殺されたことなんだ」(p216)国内ファンタジー期待の新鋭、乾石智子さんのデビュー作。
ファンタジー小説において、海外作家顔負けの骨太な世界観を紡ぎ出す著者は日本にもいますが、乾石さんが間違いなくその一人と言っていいでしょう。人々の心の闇が大きな鍵を握るダークな世界観、詩的な描写、読んでいて一気に物語に引き込まれ、300ページ一気読みしてしまいました。面白かったです。
何か大作を読み終わった時の、充足感が今わたしの内を占めています。
キーナ村の少年カリュドウは生まれた時に、月石、黒曜石、真珠の三つの宝石を握りしめて生まれてきた。
しかしそんなカリュドウの人生は、育ての親エイリャと幼馴染の少女、フィンを殺された日から一転し、カリュドウは復讐に生きるため、魔術とは違う、写本師としての修行を積みますが……。カリュドウはやがて、自分の人生と交わる、千年の因果を知ることになります。
といったようなお話。
まず、写本師という、本を媒体にした呪いを得意とする人々の存在と設定が、海外ファンタジーらしい骨太な世界観の中に、日本人らしさを感じさせて魅力的です。本から魔法というだけで、本好きならときめく設定のはず(?)
そのほか、カリュドウと千年前の因果の結びつけ、宿敵アンジストとの対決の仕方など、とにかく奥行きを感じさせる世界観と構成が巧みで引き込まれます。
カリュドウの生い立ちは、なんとなくインドの叙事詩に出てくるシカンディンを思い出しました。
本当に、西洋の感覚と東洋の感覚がナイスなバランスで保たれていて表現されている、素敵な作家さんです。個人的には、この作品は日本の女流ファンタジーの歴史に刻まれる作品ではないかと思いました。とにかく、骨太で奥行きがあります。
また一人、楽しみな作家さんができたことは、嬉しいことであります。
この世界観での続編も出版されているようなので、そちらも読みたいと思います。
羽住都さんの装画も素敵ですね。
文庫落ちしたら、ぜひ手元に置いておきたい作品です。
とにかくおすすめの一冊です。
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