(2013年感想4冊目)
谷瑞恵 著
おすすめ度★★★★☆(4・5位。一粒で何度も美味しい、優しい短編集です。)
「思い出って、修理できるものなのかな」
そういう看板を掲げている時計屋さんが、物思うようにつぶやいた。(p132)「伯爵と妖精」シリーズで有名な谷瑞恵さんの、初の一般小説ということらしいです。
仕事と恋に疲れた女性、仁科明里(にしな あかり)は、祖父母と過ごした思い出の商店街に引っ越して来ました。そこには、「思い出の時 修理します」と看板を掲げた時計屋さんや、神社などがあり……。
明里は時計屋さんの飯田秀司や神社の親戚、太一と共に、商店街でちょっと不思議な出来事に巻き込まれて行きます。
軽いミステリーとしても読めるし、少女小説として読んでも美味しいし、ファンタジーといった趣もある一冊。どう読むかによって、その人の趣味が出そうです。
谷瑞恵さんの著作は初めて読みましたが、終始漂う優しくて不思議な雰囲気にすぐに引き込まれてしまいました。読みやすかったです。
主人公も時計屋さんも、28歳なので、少女小説として読むにはちょっと苦しいかもしれませんが、なんといってもこの時計屋さんが素敵! すごく紳士で、優しくて、でもちょっと強引で、でも諦めずに待ってくれる……。この時計屋さんは、多くの女性の理想をかたどった存在なのではないかしらと思います。
太一もいいですね。彼の正体はもしかして?? うーん、この小説一番のファンタジーは太一かもしれません。
とにかく、なんともこの本の世界に浸っていたい気持ちにさせます。
わたしは時計をする習慣はないのですが、時計をしている人にはさらに面白い短編集になるかも。
どれもちょっと不思議な、いいお話でしたが、わたしは「茜色のワンピース」と最後の二篇が良かったかな。
時計屋さんと明里が過去から立ち直っていくお話が主題のように思うので、続編はないかなあとも思うのですが、もし可能ならば太一のこととかも含め、もうちょっとこの商店街を覗いてみたいなって思いました。
なんだか、非常にノスタルジックな気分にさせてくれる小説です。こういうのいいなあ。表紙の時計屋さんも素敵です。何かあたたかい気持ちになりたい時に、おすすめの一冊です。
[2回]
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