(2013年感想3冊目)
原題 East of Midnight
タニス・リー 著 汀奈津子 訳 坂口尚 表紙絵
おすすめ度★★★☆☆(悪くはないけど、リーらしさはあまり感じられないかな。)
「われわれは誰も自由ではない」(中略)「国王も、領主も、主人も、使用人も。われわれはみな、何かの奴隷なのだ(後略)」(p28)「月と太陽の魔道師」の感想です。
この著作、「ダーク・ファンタジーの女王」、「現代のシェヘラザード姫」などと呼ばれ日本にも多くのファンのいるタニス・リーの作品の中でも、日本で一番初めに紹介された作品です。
逃亡奴隷のデクテオンは目を覚ますと、平行世界に迷い込んでいました。そこは女王が治める女尊男卑の世界。女王の配偶者で、まもなく儀式によって殺されることになっている魔術師ザイスタアは、魔術を使ってデクテオンと成り代わり、自身の世界からの逃亡を測ります。
リー版「王様と乞食」といったところでしょうか。ジュブナイル小説なこともあり、リーの特徴である耽美な筆致はかなり抑えられているというか、ほとんど感じられませんが、色彩の描写のセンスはこの頃からばっちりです。
デクテオンとザイスタアは、ほぼお互いの能力まで入れ替わります。別世界に住まう同一存在でありながら、まったく対極に位置する二人。しかしその二人が入れ替わり、お互いが経験し得なかった経験をすることで、めざましく成長していきます。その様子が、たまらなく爽やかで、そうしてちょっと切ない読後感です。
表紙は坂口版と中山星香版がありますが、わたしが読んだのは坂口版。これもまた、全く雰囲気の違う表紙で、インパクトがあります。坂口版が先ですが、コレクションするなら中山版がいいかなあ。
最初はデクテオンの脳筋ぶりがリーらしさを感じられなくて、あまりのめりこめませんでしたが、後半になるにつれ面白くなってきて、一気に読めます。やっぱりリーの作品はいいですね。何かあっさり読めるものを探してる時にはいいかもです。
[0回]
PR