原題
The Mermaid's Three Wisdoms
ジェイン・ヨーレン 著 村上博基 訳 中山星香 絵
お勧め度★★★★☆(ヨーレンらしい、美しい物語)
(涙が二粒)ふと、メルーシナは思った。(もうあたしのために、水晶の涙が二粒も流れた)(p22)
20世紀のアンデルセンと呼ばれる、ジェイン・ヨーレンの長編。(というより中編??)
人間の女の子に姿を見られ、海から追放された人魚の少女、メルーシナ。
彼女は陸で、自分の姿を目撃した、耳の聞こえない少女ジェスと出会い、交流を深めていくのです……。
というようなお話。
なんともヨーレンらしい、美しい抒情性にあふれたおとぎ話ですね。陸に上がった人魚には舌がないとか、既存の人魚のイメージも大切にしているのが、個人的には好感触です。
海の描写、海で暮らす人魚たちの生活の様子が、なんとも美しく、そうして楽しそうなのでお気に入り。泡で会話するとか、手で会話するとか、いいなあと思います。雰囲気を壊さないどころか、引き立てている描写のように感じます。
ジェスとメルーシアが、お互いの交流を通して成長していく様子が、それを見守るキャプテンAの様子が、なんとも優しげで胸があたたかくなります。そうして二人は、陸も海も、結局はほとんど変わらない、同じものなのだと気づいていくのです……。
200ページに満たない薄い本ですが、主人公の少女が障碍を持っているなど、なかなか現代的な視点ですし、考えさせられるところも多く持っている名品です。分量的には、ちょっと物足りない気もしましたが、この短さが逆に良いのでしょう。
中山星香さんのイラストも良い。
物語はあくまでスタンダートなおとぎ話で、展開なのですが、読んでいて心が温まるような、そんな1冊でした。
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