菅野雪虫 著 遠野志帆 表紙絵
お勧め度★★★★☆(なかなか好き。読みやすくて読後感も良いです)
「俺には春風さまみたいな親もない。ムメのように考えるのも苦手だ。誰かに、正しいことを教えて欲しかったんだ。どうすればいいか、言って欲しかったんだ!」
そう言うと、カラスは崩れるように草むらにうずくまり、声をあげて泣き出した。(p286)
初作家さんです。そうして私にしては珍しく歴史物というか時代小説です。表紙の美しさにやられてしまいました。遠野さんの絵、好きだなあ。
舞台は平安時代の元慶年代。羽州(出羽国。今の秋田~山形県のあたり)の村長の娘、ムメが都からやってきた貴族の息子、春名丸と出会うことから始まります。
実際に史実に残る元慶の乱を、民衆たちの視点から書いた物語です。
といってもこの本を読むまで、お恥ずかしながら、元慶の乱も知らなかったし、羽州がどこかもあやふやにしか分からなかったりしたのですが。でもだからこそ楽しかったというか、読後に興味を持てた一冊でした。登場人物の何人かは実際に史実に名を残す人なので、読後にそれについて調べたりして楽しむのも、なかなか味わえない楽しみでした。
お話としては、まあ可もなく不可もなくという感じですが、読みやすい文章と全体に漂う雰囲気、そうして読後感がいいので、楽しく読むことができる1冊です。
まあ、歴史上の事件を扱うには、ちょっと分量不足で、もっと書きこんでほしかったかなあ、とは思いますが。逆にその読みやすさがいいのかも知れません。
ムメ、カラス、春名丸という3人の登場人物(少女1人に男性2人)の間で育まれる友情が、見ていて気持ちいいです。恋愛に発展する前の、あるとしたらこの物語のあと恋愛に発展するような、そんな一番みずみずしい時間を切り取っています。
最初は春名丸がヒーロー役なのかと思ったらそれはカラスで、カラスがあんなことになってしまうのでドキドキした1冊でした。裏表紙のカラスが恰好いいです。春名丸は、元服したあとがなかなか格好良かった!
いろいろとドキドキしたのですが、最後にもう一声! というかもう一波乱欲しかったような気もします。ドキドキしたのにそのドキドキが昇華されない感じでした……。
そして何より、春風さままいいなあ。もうこの話は春風さまが主役じゃないかとか思ってしまうくらい存在感が輝いている。春風さまがムメやカラスを呼ぶ時の、「羽州の私の娘(息子)」という言い方には、ムメたちと同じく胸がいっぱいになりました。
それでもやっぱり、1冊完結なのがちょっともったいないかなあ。同じ作者様で、シリーズものがあるらしいので、そちらも読んでみたいです。
ヤング・アダルトの方が、平安時代あたりの歴史に興味を持つのにはお勧めの1冊だと思います。と言いつつ私もこの話、好きです。
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