光原百合 著 吉田愛里 表紙絵
お勧め度★★★★★(切なくもあたたかく、美しい物語たちです。お気に入り)
それはおかしかったわ。だって、思い当たったんですもの。兄さまとフィンが一緒のときはわたしのことばかり話していた。兄さまとわたしが一緒のときは、フィンのことばかり話していた。そして、わたしとフィンが一緒のときは、兄さまのことばかり話しているって──。(p338)
光原百合さんによる、ケルト神話風のファンタジー。
声を失った祓いの楽人(バルド)オシアンと、その彼を補うように3倍はしゃべる相棒の少年ブランの物語です。
祓いの楽人とは、この世の理から外れたり、強い気持ちを残して亡くなり、あるべきところに行くことのできないこの世ならざる霊や妖精たちを音楽によって浄化し、あるべきところへ導くことを使命としたものたちのことです。
オシアンとブランが、自らの使命を全うとするために各地を放浪する、美しくも切なく、そうしてあたたかい連作長編です。
この本には、「声なき楽人(バルド)」、「恋を歌うもの」、「水底の街」、「銀の犬」、「三つの星」の五編を収録しています。
とにかく全編を覆う美しく優しい筆致がたまらなく大好きな作品です。文章は読みやすいのですが、これは翻訳小説だろうかと錯覚してしまうような、そんな雰囲気のある1冊です。
キャラクターも素敵です。私は特にブランと、途中から出てくる獣使いの呪い師ヒューが好き。オシアンはしゃべることができないのですが、確かな存在感を放っています。この3人がそれぞれ持っているバランスが、ともすればとても悲痛な物になってしまう物語の中に明るさを与えています。
どのお話も素敵なのですが、私が好きなのは、「恋を歌うもの」、「銀の犬」、「三つの星」かなあ。どのお話も、自身の気持ちを言葉にして伝える事の大切さのようなものが、しんみりと伝わってきます。
誰よりも大事に想う人がいながらも、ささやかな気持ちのすれ違いや不安などから、取り返しのつかない悲劇を招いてしまう人々が、とても悲しいですが、本当に一つの民話や伝説を読んでいるかのようでした。
ケルト神話に材を得ていますが、思った以上にマイルドな感じになっていたかも。それでも、雰囲気はたっぷりです。そして、神話にあまり詳しくなくても、楽しめると思います。また、あとがきでおっしゃられていたとおり、「指輪物語」の影響も感じられます。
シリーズものを想定して書かれていた作品のようですが、現在続刊が出ていないようで残念です。オシアンが声を失った理由、ブランが「ぼくの命はオシアンのものだから」と言いながらオシアンと行動を共にする理由やきっかけなど、主役二人に関する謎がまだまだ満ちていますし、なによりオシアンとブランとヒューの旅路を、まだまだ見てみたいと思わせる1冊です。
続編が刊行されるといいなあ。
興味のある方は是非手にとって見て下さい。大変お勧めの1冊です。
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