原題 I Love Galesburg in the Springtime
ジャック・フィニイ 著 福島正実 訳 内田善美 表紙絵
お勧め度★★★★★(ほっとしたりほっくりしたり。ノスタルジックなSF短編集)
これが私の悩みといえば悩みである。私は街に恋をしたのだ。前世紀に建てられ、いまでも、古い写真などで見るのとたいして変わっていない(現代的になった商店の入口を別にして)、大通り沿いのひと握りの建物に、私は恋をしてしまったのだ。
ジャック・フィニイの名作短編集。いつか読みたいと思っていたのが、念願の読書。
まずは何と言っても表紙絵が素敵ですね。内田善美さんの描いた漫画「かすみ草にゆれる汽車」もまさしくゲイルズバーグらしくて良いそうですが、こちらもいつか読んでみたいな。とにかく、この表紙が気になる人には間違いなくお勧めの1冊です。
この短編集には10篇の短編を収録。表題作「ゲイルズバーグの春を愛す」ちょっとHで笑える「悪の魔力」不思議なノスタルジック感のある「クルーエット夫妻の家」、ちょっと怖いかも(?)な「おい、こっちを向け!」一番現実的な趣のある「もう一人の大統領候補」ちょっと切ない「独房ファンタジア」一番時間SFっぽい「時に境界なし」一緒に旅をするような風情の「大胆不敵な気球乗り」のちの「夢の10セント銀貨」のもとになった短編「コイン・コレクション」現代の若者とヴィクトリア朝の乙女の恋を描いた「愛の手紙」となります。
私のお気に入りは表題作の他、「悪の魔力」「クルーエット夫妻の家」「コイン・コレクション」「愛の手紙」あたり。
50年以上昔に書かれたお話ではありますが、とにかくノスタルジックな、ちょっとほっとしたりほっくりしたりする話の雰囲気がもう大好き。どれもそれぞれ趣の違う話ばかりですが、過去に対する何ともいえない愛情と憧れに満ちた視線は、読んでいる私たちを当時の時代へといざなってくれます。
これほどまでに過去という物にこだわり続けた作家フィニイは確かにちょっと変わっているのかも知れないなあ、とか、そんな彼は80年に及ぶ生涯をどんな気持ちで過ごしていたんだろう、とか、いろいろなことを考えさせてくれる作品。
確かに現代は便利になっているけれど、なくしてしまったものもたくさんあるのだろうな。
とにかく、作者の書く恋物語(街や家に恋をするのも含め)がとても好きです。こんな恋があるなら、素敵だろうなと思える恋物語ばかりです。(ちょっと笑っちゃうのもありますが)
こんないそがしい冬の暮れだからこそ読みたい、そんな一冊かもしれません。
お勧めの1冊です。
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