原題 Prince on a White Horse
タニス・リー 著 井辻朱美 訳 中山星香 表紙絵
お勧め度★★★★★(なんだか無性に好きな1冊です)
だがそれとは別に、自分が王子であること──何という王子だろう?──白い馬にのっていること──誰の馬だろう──そしてこの荒野を十時間にわたって駆けつづけていること──なぜだろう──だけがわかっていた。もしかしたら、自分は休日を楽しんでいるのかも知れない。
なんだか無性に読み返したくなって読んだ1冊。
と言っても、昔読んだときはあまり肌にあわなくて、挫折してしまった1冊でもあるのですが、人は変わるもので、今読み返したら本当に面白く感じた1冊でした。
自分がだれで、どこからきて、何をするべきなのか? そう言った一切の記憶のない、白馬に乗った王子が繰り広げる探索(クエスト)
馬はしゃべらないと言いつつもなぜかしゃべっている丁寧だけどあまりやる気のない白馬(たまにライオンになる)を相棒に、荒野の魔女、森のチャンピオン、空の住人、ドラゴン、水の妖魔などが跋扈する世界をゆく。
しかも、王子は<待たれていた救世主>なんて呼ばれてしまい……。
そんなたいそれたものになる気はさらさらない王子は、それでもやる気なく事件に巻き込まれていく……。
というようなお話。
とにかくコミカルで、思わずクスッと笑ってしまうような、そんな脱力系のアンチ・ヒーロー物のファンタジーです。
個人的にこの王子の性格と、人を食ったような馬との掛け合いが楽しくてなりません。
タニス・リーと言うと、「平たい地球シリーズ」に代表される耽美で幻想的な作風が有名で支持を集めていますが、それとは打って変わって、だいぶ肩の力を抜いたファンタジーです。
でも、さすがはタニス・リー。コミカルな中にも、随所にうっとりするような表現とイメージの世界であふれています。とくに色彩の幻想的な美しさはたまりません。
個人的に、王子のこの性格が好きで好きでたまらない。
「あなたのような方が乙女の頼みを無視するわけはないでありましょう?」
「いや、ところがそうするんだ」
みたいなやり取りとか。
他の登場人物が結構真面目なだけに、王子と馬のやる気の無さが際立ちます。
でも、まじめなゲメルとかイソームとかもとても愛らしいですけどね。
そんな王子でもやるときはやるようで、そこがまた格好いい。「ジュウェルスター!」という鬨の声は、ファンタジー好きとしては血潮が熱くなります。
あとがきで翻訳者様も言っていますが、タニス・リーの入門としてはちょうどいい1冊ではないかと思います。
本当に大好きな1冊です。
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