原題 Merlin Dreams
ピーター・ディキンスン 著 山本史郎 訳 アラン・リー 絵
お勧め度★★★★☆(あまりアーサー王らしくありませんが、文章、挿絵の美しさは随一です)
曠野を、丘をさがしても、
どんな岩の下にも、そんな男などいない。
だが、生まれくる人びとの心の底に埋もれながら、
男の心は夢をみる、夢をみつづける。
アラン・リーの挿絵の美しさに惹かれて読了。アラン・リーと言えば、指輪物語の愛蔵版の挿絵で有名な人ですね。
アーサー王伝説に登場する魔術師マーリンが、乙女ニムエに夢中になり、彼女に教えられるだけの魔術を教えたら、逆に岩の中に閉じ込められてしまったというマロリーのエピソードから着想を得ています。
本作はその閉じ込められたマーリンが見る夢という形で語られています。
マーリンは夢から目覚める合間に過去のことを思い出します。夢の内容はアーサー王とはあまり関係がなく、童話のような物語たちといった雰囲気です。
マーリンのことも「男」、ニムエの事は「女」と統一されて表現されているので、本当にアーサー王に着想を得た話なのか、どこの国のどの時代の話なのか、非常にあいまいな気分になります。
ファンタジーと分類しましたが、非常に幻想文学的なお話です。
マーリンが見る夢の中のお話でも、夢がキー・ワードになる話は多いので、本当にそういう意味では幻想的なのですよ。
アーサー王の話はあまりないけれど、その時代のエッセンスというようなもの、騎士や乙女たちの交流や当時の暮らしぶりなどの雰囲気はとても出ていて、これは形を変えた一つのアーサー王伝説の形なのかもしれないなあなどとそんなことを考えてしまいました。
アラン・リーの挿絵は文句なく美しく、訳文も硬質な美しさをまとっていて、カラーも白黒の挿絵もふんだんに挿入されているので、アラン・リーのファンなら必読の1冊だと思います。
とにかくきれいな本なので、そういうものが読みたい方にはお勧めです。
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