原題 The Beggar Queen
ロイド・アリグザンダー 著 宮下嶺夫 訳 丹地陽子 表紙絵
お勧め度★★★★☆(とにかく一気に読める面白さ!)
ドミティアンでジャスティンといっしょにいたとき、ぼくはケストレル大佐だった。ヒーローと言われていたが、じっさいは殺人者だった。ぼくは自分をモンスターに変えたのではなかった。ぼく自身がモンスターだったのだ。
「あのころの自分にはなりたくない」テオは言った。「あのころにもどるなんて、まっぴらだ」
「そう」ミックルは彼を抱いた。「あなたはあなた自身であればいいのよ」
ウェストマーク戦記最終巻。
アメリカではウェストマーク三部作として知られ、すでに古典的地位を獲得している名作だそうで、確かに新しさはないかもしれませんが、今読んでも色あせることのない素晴らしい物語です。
この三冊目では、タイトル通り首都マリアンシュタットに嵐が吹き荒れます。
国外追放された独裁者の宰相カバルスが戻ってきて、総統府をうちたて、再び独裁政治を始めるのです。
テオたちはそれに抵抗します。
この3冊目の物語の主人公は名前のあるヒーローではなく、まさに民衆一人一人だと感じる、そんな物語でした。
とにかく展開が活き活きしていて、一気に読ませる力をもっています。
戦争の中で描かれる若い愛情、中年の男女の静かなそれ、年上の男性に対する少女の一途な愛、友愛など様々なものが鮮やかに描かれます。
とにかく多くの人が死んでしまうのが、とても悲しかったです。愛する人の手の中で死んだもの、愛する者を守って死んだもの、そういったものから離れた場所で死んでしまったもの、最後に昔の自分を取り戻して死んでいくもの。
戦争とは、人からなんとも簡単に人間性を奪ってしまいます。それでも、その中で人々は人間らしく生きようとしています。
この話は、英雄性の否定をしている話なのだと思います。等身大の人間を描いています。
そうして人々が、テオとミックルが、戦争のはてに何を手に入れたか、是非読んでみてくださればと思います。
個人的なお勧め読者層は中学生~大学生あたりの学生さんだったりします。
とにかく、とても深い、アリグザンダーらしいシリーズだったと思います。
このシリーズも、やっぱりすごく好きです。
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